古典園芸 桜草 その6 ガーデニングとの相性

寂しき桜草、なぜガーデニング派の人には取りあげられないのか?

若い頃から俳句をやっていました。やっていたといってもただ俳句結社「風」(主宰沢木欣一)に会費を払って会員になっただけ。しかし会員には俳句に熱心で親切な人がたくさんいました。それで俳句は上達したのかというと全く進歩しませんでした。なぜかというと教えられた通り作ろうとするからその「流儀」が気になって自分が表現しようとしたものが消えてしまったような気がします。

 ちょうど同じころ「さくらそう」に凝り始めました。― 桜草を「さくらそう」とひらがな表記する時は人の手によって作出された園芸種を、カタカナ表記の時は野生種さすというのが植物界のルールになっています― 念の為 ― 

 ある時近所を散歩していたら生垣に下がっている札に目が留まりました。「菊が咲きました ご覧ください」 広い家で庭も奥深そうです。奇特な人もいるものだと感心していましたが二三日してまた通りかかると初老の人と目があいました。

「菊を拝見したいのですが・」 これが古典園芸への入門でした。庭には数十鉢の見事な大輪の菊が並んでいました。そして年が明けると桜草の植替えがあり、ハナショウブそして,朝顔へと続く古典園芸の栽培サイクルについて教えてもらいました。

 むろん一日でわかるはずがありません。日曜ごとに通いました。この先生 お師匠さんはおおらかな人で「その植物と語りあうといい」じっと見ていると水が欲しいか太陽光かそれとも肥料か、肥料ならどんな肥料か、わかるようになってくる。というんです。

 お師匠さんの花は、桜草にしろ朝顔にしろ花は大きく葉は小さく「花大 葉小」がモットーでした。しかし伝統の型にはめ込む堅苦しさはなく土も肥料も楽しみながら造っていました。

 ところが勇んで入会した「古典園芸の会」のそれぞれは、同好の仲間の集まりですから楽しくはあるのですが、なぜかどこかギスギスしたところもあります。

 やがて判りました。会の主要メンバーはみな「花」自慢で「俺が俺が、俺の花が一番だ」と思っているのです。会員はみんな男でオレがオレがと男社会の肩ひじ張った生き方のままでいますから女性が入会してもなじめずにすぐやめてしまいます。

 会員同士他人の花をけなす、批判するには主観的な見方では収まりません。そこで古来守ってきた「型、ルール」が必要になってきます。例えば朝顔なら花に対して「葉がデカすぎる。蔓のカットの仕方がおかしい、花に対して受け葉が無い」などとなってきます。

 朝顔は蔓から葉柄がでて蔓との付け根に蕾がつきます。しかし葉柄が取れてしまったり何かの事情で蔓からいきなり花が咲くことがあります。それは正規の花ではない、花は必ず葉とセットになってなければならない、と言うのです。✊

 特に朝顔会はゆるぎない男集団です。桜草は近年女性会員が少し増えました。これは昔に比べ伝統の形式を緩めたからではないでしょうか。5号鉢に4芽、高さをそろえるというルールはそれなりに守られているものの近年作出された大輪の花は、ボリュウムを出すためにあえて高さをずらしたりします。

 また最近出まわってきた八重咲の花々は女性に人気があります。作出した育苗家の一江豊一氏は、「私は古典園芸の桜草会には一度も参加したことはない」といっています。その鉢植えの手法は「ともかく元気に育てよう」という風にみえます。また八重咲は地植えに適した物を開発しようというところからスタートしたと聞いています。

 展示会を訪れ苗を購入する人に「地植えできますか」と聞かれること増えまました。自生地は言うまでもなくみんな地植えです。桜草会の特に古参の人は八重咲を避ける傾向にあり、地植えの相談にものりません。

 かくしてガーデニングを楽しむ人は、「さくらそう」プリムラシーボリティを手にしません。また学者、研究者も地植えに反対します。「やたらなところに植えると交雑して、自然破壊につながる」

 桜草はますます絶滅危惧種に近づき、寂しき花になっていきます。俳句と同じようです。伝統の型を強調しすぎると花もおおらかな風情を失いかねません。

 自宅近く(横浜市)の駐車場のわきに植えられた桜草。近くに水場もないが地植えでも毎年綺麗に咲いています。さくらそうは、ガーデニング派の人には煙たがられているような気がします。地植え大鉢植えには、それなりの楽しみがあります。園芸種でも「月の都」「駅路の鈴」などは地植えにもむいています。

 それに関東関西で綱引きでもするかのように「桜草は我らが花」と歌い上げるのはいかがなものでしょうか。特に関東にその気が強く「徳川家康が鷹狩の折にこの花をめでた」ことから家臣の間に栽培が広がったなどという作り話を広めています。

しかし 家康と桜草を結びつける資料はなにもありません

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